なんで人と比べてしまうんだろう?【公認心理師監修】
大人になるための準備期間である10代は、カラダだけでなく、ココロも大きく変化します。
幼いころには感じなかった苦悩を感じたり、気持ちが不安定になったりして、戸惑うことも多いかも。自分のココロとどう向き合っていいのかわからなくなったときには、ぜひこのページを参考にしてください。
今回は、思春期の誰もが経験する「人と比べて、どんどん自信をなくしてしまう」傾向について、一緒に考えてみましょう。
登場人物
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ヒカルくん
茨城県水戸市在住の16歳。県立高校1年生で部活はサッカー部。
最近は、なんでも友達と比べてしまう。自分の欠点ばっかり目について、どんどん自信をなくしている。 -
モヤパン
悩める若者の恋愛や性のモヤモヤから生まれた謎の妖精。
ヒカルくんの彼女のコマチちゃんをいつも優しく見守りつつ、はっきり物事を言うあねご的な存在。
どうしたのよ、ヒカルくん。ため息ばっかりついて
なんだ、モヤパンか。ちょっと今、テンション低いんだ。ほっといてよ。
なんかあったの?
今日、サッカー部の練習試合があって、ちょこっとだけ出場させてもらったんだ。チャンスだと思って、張り切って出たんだけど…。張り切りすぎて、空回ってばっかりでさ。
な〜んだ。そういうことね!
誰にだってうまく行かないときはあるわよ。元気だして。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜。最近、俺、自分に自信がなくてさ。なにやってもうまくいかないんだ。“うつ”かなぁ?
考えすぎよ。次頑張ればいいじゃない。
どうせ、次なんてないよ。監督も今日の俺のプレイにあきれたはずさ。もう二度とチャンスは来ないんだ。それに比べて、アイツは…
アイツってだれ?
幼馴染の茂手杉(もてすぎ)だよ。アイツとはサッカーを始めたのもおんなじタイミングで、一緒に練習していたはずなのに、俺よりはるかにサッカーがうまいんだ。1年生でレギュラーだぜ!ベンチの俺とは大違い!
へぇ〜。1年生でレギュラーって、すごい子ねぇ。
サッカーだけじゃなくて、勉強だってすごいんだ。定期テストじゃ毎回トップで「将来は医者になる」って言ってるよ。それに比べて俺は…毎回赤点ギリギリで、将来の目標もない…。
運動も勉強もできて、将来のビジョンも持ってるのね。高1なのに、すごいわ。
でも、だからといってヒカルくんがそんなに落ち込むことはないわよ。成長のスピードはひとそれぞれなんだし。
それだけじゃないんだ。アイツは…。
アイツは…?
イケメンなんだ。
運動も勉強もできて、将来のビジョンもあって、イケメン。ってことは?
すっごくモテる!
でしょうね。
ぐぉぉぉぉぉ〜!なんでもできて、イケメンで、モテる。そのうえ、性格もイイんだ。なんにもできなくて、ぜんぜんモテなくて、性格もヒクツな俺なんかとは大違いなんだ!!!!!
・・・
はぁ。俺って、生きてる意味、あるのかな?
なに言ってんのよ、ヒカルくん。あなた茂手杉くんと比べて、自分のだめなところばっかりに目が行って、自信をなくしてるだけ。ヒカルくんだって、いいところはいっぱいあるじゃない。
人と比べてばっかりいると、疲れちゃうわよ
そうなんだ。俺、最近だれかと比べてばっかりいるんだ。そのたびに自信なくして…。昔はこんなんじゃなかったのに。はぁ〜、なんで人と比べちゃうんだろう、俺。
ヒカルくん、ため息が多すぎよ。幸せがどんどん逃げていくわよ。
思春期はネガティブな感情だらけ
まあ、でもそうやって悩んだり、落ち込んだり、自信をなくしたりっていうネガティブな感情も、思春期にはあって当たり前なのよ。
そうなの?こんなにヒクツでネガティブなのは、きっと俺だけだよ。周りのみんなは明るくて、人生楽しんでそうだもん。
周りの子たちも明るく見えて、実は悩んだり落ち込んだりしているものよ。だって、いわゆる思春期の中学〜高校生なんて、“悩みを持つのが仕事”みたいなもんなんだから。
悩むのが仕事?
そうよ。そもそも思春期は子どもから大人に変わる時期のこと。それはわかるでしょ?
まあね。子どもでも、大人でもないって感じがするよ
子どもと大人のステージの間には、すごい段差があって、そこにかかる階段をのぼり続けるのが、思春期の仕事。
「今日から大人です!」なんてきっぱり大人になれないから、何年もかけてこの階段をのぼって行かなきゃならないのよ。神社の石段を何年ものぼり続ける感じね
げぇ。こりゃ、大変だぁ。
階段をのぼりながら、カラダもココロも、少しずつ大人になっていくわけ。
カラダの変化はわかりやすいわよね?ワキ毛や陰毛が生えたり、精通を経験したり、声がわりしたり、身長が伸びたり。
うん。俺も中学の間に15センチも身長が伸びたよ。
ところが、ココロの変化は目に見えないから、どこまでのぼってきたのかわかりにくいの。
今、ヒカルくんは毎日不安になったりイライラしたり、感情に振り回されているけれど、それもちゃんと階段をのぼってきたという、「成長の証」なのよ。
たしかに昔はこんなにクヨクヨしたり、イライラすることはなかったような気がする…。
思春期には、「ホルモン」っていう成長を促す物質がたくさん出て、カラダにもココロにも影響を与えるの。
身長が伸びるときに、骨がきしんで身体が痛かったりするでしょ?ココロも同じ。イライラしやすかったり、気分の変化が激しかったりするでしょ?そうやって自分と向き合う痛みや苦しみを感じながら成長しているの。
大人になるのって、大変なんだなぁ
大人になる準備として、「自分」を知ろう
ヒカルくんが自分と茂手杉くんを比べてしまうのも、実は大人になるために必要なことなのよ。
どういうこと?
それを説明する前に、ヒカルくんは「大人になる」ってどういうことなんだと思う?
おとな…?大人になるってどういうことなんだろう?
働いて、お金を稼いで、自分の好きなことをやったり、好きなものを買ったりできるようになること?
お金の話ばっかりね(笑)
あ、それと結婚したり、投票したり、就職したり、お酒を飲んだりできるのも、大人ってかんじ。
そうよね。大人になるとできることって、たくさんあるわね。なぜなら大人は自分の意志で決定し、責任をもって行動できる存在だからなの。自分で考えて、自分で決められる人っていうことよ。
一部には、年齢的には成人でも、大人になりきれていない人もいるけどね。
自分で考えて、自分で決める。それが大人かぁ。親や先生が決めたことをやらされる子どもとは違うね。あぁ、早く大人になりたい!
でもね、自分で考えて決めるためには、まずしっかりと自分を知ることが必要なの。
自分を知る?
自分がどんな人間で、何が得意(長所)で、何が苦手(短所)なのかとか、そういう「自分」のことをちゃんとわかってないと、自分にあった選択なんてできないでしょ?
確かに。自分のことがわかってないと、自分に合った選択なんてできるわけないよ。
人と比べるのは「自分」を知るため
「自分とはなにか?」を、難しい言葉で言うと「アイデンティティ」っていうの。思春期は、大人になるための準備として、そのアイデンティティを確立するための時期だと言われているのよ。
アイデンティティ…。言葉は聞いたことがあるけど、そういう意味だったんだ。
でも、俺もずっと「自分ってなんなのか」とか、「自分は生きてる意味があるのか」とか考えているけど、全然答えが見つからないんだ。
さっきも言った通り、大人になるための準備期間(思春期)は何年も続くの。その間じゅう考えたり、悩んだりしながら、成長していくのよ。
思春期が終われば、アイデンティティが見つかるの?
必ずしもそうとは言えないわ。
思春期の時期は一般的に小学校高学年頃〜18歳頃までと言われているけれど、その間にアイデンティティを確立できるとは限らないわ。
いつまでもアイデンティティを確立できずに、40歳とか50歳になってしまう人もいるしね。
俺もそうなりそうだな。人のことにばかり目が行って、自分のことは全然わからないんだ。
実はそうやって、人と自分を比較することも、自分を知るために大事なことなのよ。人と比べて自分の能力が高いか低いか、自分を判断しようとしているんだもの。その段階まで来ただけでも、立派に成長してきたってこと。
人と比較して自分を見ることができるっていうのは、高い知力が必要になるの。第三者の目線で自分を見ることができるっていうことだからね。幼いころには持てなかった視点でしょ?
第三者の目線、か。確かにそうかもしれない。子どものころは、そんなふうに自分のことを見れなかったもの。いつも馬鹿みたいに自信満々でさ。
そうでしょ。自分の実力を客観的に判断できなくて、なんでもできる気になっているのが子ども時代。でも、徐々に「思考力」や「想像力」を養って、自分を客観視して見つめることができるようになったのが今のヒカルくんなの。
じゃあ、人と比べることは、悪いことじゃないの?
悪いことじゃないわ。それどころか、ちゃんと成長してきたって証よ。ヒカルくんの心は今、自分が何者だか知りたいと思っていて、そのために常に人と比べてしまっているの。そうした行動が必要な時期だから、苦しくても繰り返しているのよ。
必要な苦しみかぁ。俺の心も、頑張ってるんだな。
比較対象を目標にしたり、過去の自分と比べてみよう!
でも、こんなのがまだ何年も続くと思ったら、苦しすぎるよ。
人と比べて、自分がダメだダメだと思い込んでしまうと、つらいばっかりよね。特に最近はSNSなんかで他人がどうしたこうしたっていうのが簡単に見えるから、比べすぎて疲れちゃうこともあると思うわ。そんなときは、ちょっと考え方を変えてみたらどう?
考え方を変える?
たとえば、茂手杉くんが持ってない、ヒカルくんだけの「いいところ」を見つめてみたら?
たとえばほら、こんな感じ。
モヤパン、俺のことすごくわかってくれてるね。なんだかうれしいよ!
自分の「いいところ」って、自分自身じゃ気付きにくいものよね。
それに、誰かと競って能力の高い低いで判断できるものとは限らないわ。好きなことがあるとか、なにかに夢中になれるってことも、人とは比べられないけれど立派な「いいところ」だと思うわ。
世の中に一人として同じ人はいないから、ヒカルくんらしい「いいところ」をたくさん見つけられるといいわね!
ありがとう。ちょっとだけ自信が出てきたよ!
それと、もう一つのアドバイス。
誰かと比較して「自分はダメだ」と思うんじゃなくって、「自分もあんなふうになろう」って目標にしてみたらどうかしら?
「自分はダメだ」じゃなくって、「これからああなろう」か。俺なんかでも、茂手杉みたいになれるかな?
少しでも近づけるようにしようって気楽にかまえればいいのよ。
ヒカルくんたち高校生には、まだまだ時間も可能性もた〜っくさんあるから、向上心を持っていれば、これからいくらでも成長できるわよ。
あとは、比較対象を誰か他人にするんじゃなくて、過去の自分と比べてみるっていうのも手よ!
過去の自分?
そう。茂手杉くんと比べたら、ヒカルくんはサッカーがうまくないと思っちゃうかもしれないけれど、中学生のときの自分と比べたらどう?
中学時代と比べたら、そりゃあ断然うまくなってるさ!体力もついたし、技術もケタ違いだよ。
そうでしょ?ヒカルくんはヒカルくんなりにしっかり成長しているのよ。みんな成長のスピードは違って当たり前なんだから、人と比較して落ち込むばかりでなく、自分の成長を実感して、自分をほめてあげなくっちゃ。
…うん。そうだね!もっと自分をほめてあげようと思うよ。頑張ったな俺!よくやってるぞ俺!
そうそう。その意気!あとは、変わっていない勉強のほうも、少しずつ成長していけたらいいわね
くぅぅ…。そっちも頑張れ、俺!
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こころの健康が気になる時は、こちらのサイトを参考にしてね(外部サイトに飛ぶよ)
こころもメンテしよう~若者を支えるメンタルヘルスサイト~(厚生労働省)